こんな方におすすめ
- 人間の嗅覚で評価しているニオイをデータとして扱いたい企業様
- 高湿度環境でのニオイセンシングに関心のある企業様
- センサとアルゴリズムを併せたニオイセンシングで新しいソリューションを検討したい企業様
五感のラストフロンティアとも言われる「嗅覚」の機械的実現
ニオイは多くの化学物質が混ざった複雑なターゲット
人間の嗅覚に代わりうるセンシング技術はほかの五感からはやや遅れをとり、実用化は発展途上と言われてきました。五感のラストフロンティアと呼ばれるほど、難度の高い嗅覚デバイスの開発。それは人間の嗅覚が、感覚器である「嗅覚受容体」と中枢神経である「脳」が密接に関連する、複雑な情報処理プロセスであることが要因です。
そもそも、人間の場合、嗅覚でニオイを感じるとき、鼻腔内に約400種類も存在する嗅覚受容体が多種多様な気体分子の複合体に反応し、複雑な神経信号の組み合わせを脳に送ります。この神経信号パターンを脳が統合的に処理することで、気体分子を瞬時に識別しています。つまり、二酸化炭素やメタンなど限られた数の分子を想定した従来のガスセンサとは違い、はるかに複雑なターゲットを検知するのが嗅覚デバイスです。
分析能力の向上から見えてきた定量化の実現
実用化レベルの嗅覚デバイスを開発するために、2010年代中盤以降から関係者の注目が集中しているのがAI技術です。AI技術の進歩に伴い、嗅覚のメカニズムにおいて後半部分に当たるニオイの「識別」はハードルが下がったとも言えます。そして今、嗅覚デバイスの実用化に向けて開発競争が加速している領域が、嗅覚受容体を機械的に模倣する技術です。つまり、ニオイの「検出」に焦点が当たっており、実用化レベルの嗅覚デバイスの開発は最終段階に差し掛かっています。
ムラタは、2019年から嗅覚デバイスの実用化プロジェクトを進めています。嗅覚受容体を一種のセンサ素子として捉えれば、ムラタの強みであるセンシング設計技術を活かすことができます。そして、2025年にはPoCモデルである「ニオイセンサ」を発表しました。
人間の嗅覚を模したムラタの『ニオイセンサ』
センサ部とAIで嗅覚の検知プロセスを再現
ムラタの「ニオイセンサ」は鼻腔に集まる嗅覚受容体に相当するセンサ部と、脳の役割を担うデータ解析部に分かれています。ニオイのもとになる気体分子をセンサ部が検出すると、電気信号パターンがデータ解析部に送られます。そして、AIアルゴリズムを通じて臭気や芳香を識別するといった仕組みです。
ニオイの電気信号を生み出すMOXセンサ素子
嗅覚受容体の機能を担うのはMOX(Metal Oxide=金属酸化物)センサ素子です。これを、センサ部に複数並べることで、鼻腔に密集する嗅覚受容体を模倣しました。さらに、センサ部のMOXセンサ素子は、一つひとつの組成が異なっています。これにより、複雑な電気信号パターンがセンサ部から生じます。
MOXセンサ素子の表面部、感応膜は酸化還元反応の触媒として働きます。すると、気体分子と感応膜の間で電子の出入が生じ、MOXセンサ素子では電気抵抗が経時的に変動します。この電気抵抗の振る舞いは、気体分子の種類ごとに異なっています。つまり、数種類のMOXセンサ素子を統合することで、それぞれのニオイごとにユニークな電気信号パターンがグラフの組み合わせとして現れます。さらに、酸化還元反応の促進により検出感度を高めるため、約400℃で発熱するヒーターをMOXセンサ素子の基部に内蔵しています。
これらの開発には、ムラタが有する積層セラミックコンデンサとMEMSジャイロのノウハウが活かされています。
ニオイの識別や言語情報との紐づけが可能に
気体分子の複合体で構成されるニオイは、無数のバリエーションが考えられます。イレギュラーな気体分子がわずかでも組成に加われば、ニオイの性質がほとんど変わらなくても電気信号パターンは様変わりします。逆に、まるで異なるニオイが、一見するとよく似た電気信号パターンを示すことがあります。このように、嗅覚センサデバイスのセンサ部から解析部に送られる電気信号パターンは非常に難解です。つまり、ニオイを識別するために人間が直接解析することは非現実的と言えます。
この複雑な電気信号パターンを解析するために、独自開発したAIアルゴリズムを「ニオイセンサ」に実装しました。既知のニオイの電気信号パターンをAIモデルに予め学習させておくことで、ニューラルネットワークを通じて、気体分子の複合体をニオイとして識別できます。
さらに、AIアルゴリズムを実装したことで応用の幅が広がりました。たとえばセンサ部で生じる電気信号パターンは、ニオイの組成だけでなく濃度によっても変化するので、気体分子の濃度も推定できます。また、ニオイの識別基準を官能表現に紐づけるといった応用も可能です。
わずかなニオイを高速・安定的に捉えるムラタの独自技術
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特長
検出感度は技能者の嗅覚に匹敵
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ニオイセンサの検出能力 一般的に、既存のガスセンサの検出感度はppmオーダーです。一方、ムラタの嗅覚センサデバイス「ニオイセンサ」は1ppbのニオイを検出できます。この検出感度を人間の嗅覚にたとえると、環境臭や官能試験の技能者や、口臭・体臭に敏感な方に匹敵するレベルです。また、口腔内疾患や成人病といった疾患を見つけられる検出感度とも表現できます。このため「ニオイセンサ」は、データセットの蓄積などにより識別能力が向上することで、幅広い分野への応用が期待できます。
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特長
数十分かかっていた計測時間がわずか5秒に
従来、機器によるニオイの検出には、少なくとも数十分を必要としていましたが、ムラタの「ニオイセンサ」は、評価条件によっては、最短5秒※でニオイを検出できます。
※評価条件によって検出時間は異なります。
速さと感度の秘密は、MOXセンサ素子の感応膜にあります。セラミック材料でできた感応膜は、高度に制御された多孔構造を持ち、しかも薄さはnmオーダーです。つまり、感応膜の深部に気体分子が速やかに届きやすく、電気抵抗の変動がより大きく素早く起きるので、わずかなニオイを高速検出できるのです。
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高感度・迅速な応答を実現する薄膜技術 -
特長
湿度変化への高いロバスト性
セラミック素子の材料組成を最適化することは、湿度変化の耐性にもつながっています。実際に、湿度が変わっても出力結果が安定しているという検証結果もあります。
以下は、センサ応答の湿度依存性を示すデータです。20%から80%まで環境の湿度を変えながら、硫化水素10ppbに対する反応を計測しましたが、数値の変化はいずれも基準から±10%に収まっています。
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センサ応答の湿度依存性 このようにMOXセンサ素子の開発では、優れたセラミック材料が欠かせませんでした。「ニオイセンサ」の性能を実用レベルにまで高めるうえで、ムラタが培ってきたセラミック材料開発のノウハウが活きたと言えます。
『ニオイセンサ』の活用が期待される分野
活用分野 01 工場の機械・設備のトラブル抑止
わずかなニオイを検出・識別できるので、機械・設備のトラブルにつながる異常を発見できます。特にガスセンサとは異なり、様々なニオイに対応できるため、想定外の異常の分析にも役立ちます。ニオイを安定的かつ高速で検出・識別できることから、リアルタイムの異常監視も実現できます。
活用分野 02 食品の品質管理
腐敗や汚染など、見た目ではわかりにくい食品の異常をニオイで発見できるため、製造ラインや倉庫においてリスクの顕在化を抑止できます。また、バルク製造の現場では、その工程を管理するためにニオイの観点を加えれば、品質の安定化を図れます。さらに、熟練者の評価基準をAIモデルが学習できるので、官能試験の精度向上にも役立ちます。
活用分野 03 介護施設のケア品質の維持向上
利用者に起きた異変をニオイで察知できれば、プライバシーを確保しつつ介護サービスの質を高められます。居室のリモートモニタリングも実現できるため、人員数が限られているときでもサービスの質が維持しやすくなります。
活用分野 04 オンライン医療・ヘルスケアの精度向上
患者のニオイを定量化すれば、オンライン診療で医師が得られる情報の幅が広がります。さらに、様々な人のニオイについて定量化が進めば、オンライン・ヘルスケアサービスの開発につながります。
よくあるご質問
一般的な用途特化型のガスセンサは、特定のガス成分を検知・測定することを主目的に設計されています。一方、ムラタの「ニオイセンサ」は、材料の異なる複数のMOXセンサの応答パターンを機械学習で解析し、複数成分からなるニオイの違いや変化を捉えることを目指しています。
ニオイの識別は、検出した気体分子の複合体と官能表現の紐づけによって変わります。識別できるニオイの幅を拡げるため、データセットについて蓄積を進めています。なお、現在検出できる気体分子は次のとおりです。硫化水素やメチルメルカプタン等の硫化系物質、アンモニアやトリメチルアミン等の窒化系物質、酢酸や酪酸・イソ吉草酸等の脂肪酸系物質、アセトン等のケトン系物質、ジェオスミンや2-メチルイソボロネオール等のカビ臭物質です。
現在は開発段階です。共創パートナーとともに応用の方向性を模索していきます。
人間の嗅覚を模倣したセンサデバイスは、数多くの方式が提案されていますが、ムラタが開発した「ニオイセンサ」は、ppbオーダーの気体分子を最短5秒で検出できる点が強みです。また、材料設計により、湿度変化によるセンサ応答への影響を抑えています。
ニオイの定量化により、人間の嗅覚を使った「評価」や「モニタリング」の自動化・客観化に役立つと考えています。現在、「ニオイセンサ」の実用化に向けて数社のパートナー企業様と協業させていただいておりますが、さらに具体的な用途を模索しています。ぜひお声がけください。
開発者の声
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村田製作所
佐藤 隆太郎(さとう りゅうたろう)
技術・事業開発本部 新規技術センター 先端デバイス技術開発部
荒川 建夫(あらかわ たけお)
米澤 祐基(よねざわ ゆうき)
田畑 知佳(たはた ちか)ニオイは多くの人が日常的に感じているにもかかわらず、これまではデータとして扱いにくい情報でした。この曖昧で複雑なニオイを、私たちはセンサとアルゴリズムで扱えるようにしたいと考えて開発を進めています。現時点では特定用途に閉じるのではなく、まずはムラタのニオイセンシング技術の可能性を広く知っていただき、さまざまな視点から応用のヒントを得たいと考えています。ニオイを切り口に新たな価値を生み出したい企業様からのお問い合わせをお待ちしております。
お知らせ
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共創パートナー募集中の開発テーマ「ニオイセンサ」を掲載しました。
お問い合わせ
ムラタのニオイセンシング技術や、センサとアルゴリズムを組み合わせた活用イメージにご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
※当商材は開発品であるため、仕様は事前の告知なく変更される場合があります。